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ガバナンスと効率化が海外展開成功の秘訣 

いすゞが世界12拠点にSAP製品を導入 グローバル展開の勝ち筋を学ぶ 

海外進出時、どのようにガバナンスの確立と進出先の事業運営の効率化を両立させるのか。いすゞ自動車がSAP製品の導入と更新によってグローバル展開を成功させた事例を基に、その最適解を考える。

2024年07月04日 10時00分 公開


キャップジェミニ 
小幡・ジュリアン氏 

日本企業の海外進出の重要性が改めて注目されている。フランスに本社を置くグローバルITコンサルティングファームのキャップジェミニ日本法人でシニアディレクターを務める小幡・ジュリアン氏はこう語る。 
 「日本企業は世界で通用する製品、サービスを開発しています。競争力の高い製品を持っているからこそ、海外に進出して成長を続けています。日本国内のマーケットは社会の成熟と人口減少による縮小が見込まれます。海外進出に対する期待が高まっていると言えます」 
 大手を中心に多くの日本企業が海外に進出しており、さまざまな国や地域に拠点を構え、工場や営業所を設置している。 
 かつて、日本企業の製品は圧倒的な競争優位性があり、いかに早く現地に進出して事業を立ち上げるかが重要だった。そのために現地の都合を最優先し、現地に合った組織体制やシステムを採用して業容を拡大する傾向があった。

キャップジェミニ 
メダリャ・シーラ氏 

しかし今、グローバル市場での競争が激化する中で、グローバル企業はより効率的で柔軟性のある運営体制を必要としている。最も重要なのは、本社の指示を迅速に伝えて実行する仕組みの構築だ。キャップジェミニでシニアディレクターを務めるメダリャ・シーラ氏は以下のように話す。 
 「多くの日本企業が海外進出時に、国や地域ごとにバラバラのシステムを導入しました。その結果、共通基準での管理や各地の情報を素早く収集する仕組みができていない企業もあります。今は、SAPが提供するグローバル標準のシステムを導入する企業が増えています」 

キャップジェミニ 
メダリャ・ホセ・ジュニア氏 

しかし、本社の命令だけでは現地は動いてくれない。 
 キャップジェミニでディレクターを務めるメダリャ・ホセ・ジュニア氏は、「グローバル共通のシステムを導入する際は、本社のガバナンスと地域のカルチャーフィットのバランスを取ることが最大のチャレンジになります」と話す。

こうした課題を解決するためにキャップジェミニが支援するのが、「グローバルオペレーティングモデル」(GOM)変革だ。海外進出時に、ガバナンスの確立と進出先の事業運営の効率化を両立させるためには極めて重要な取り組みだ。 

GOM変革には3つの段階がある。まず、共通の価値観で仕事を遂行するための「ビジョン・人材方針」の策定だ。主に本社部門が主体となって実施する。次に、ビジョンを実現するための「組織/ガバナンス」を確立する。最後に、これらの仕組みを動かす基盤として不可欠な、グローバル共通の「業務プロセス/ITプラットフォーム」を構築する。 

GOMは、世界各地のビジネスとIT導入に精通したキャップジェミニのようなパートナーの協力を得ることで無理なく変革できる。 

キャップジェミニのGOM構築アプローチ(出典:キャップジェミニの提供資料)

商用車、ディーゼルエンジン製造で世界有数の販売台数を誇るいすゞ自動車(以下、いすゞ)は、2000年以降、国内本社を含む12拠点でSAPのERP「SAP ECC」を導入してきた。2007年からは、グローバル展開を強化するためにキャップジェミニとの共同プロジェクトに注力している。 

 いすゞのSAP ECCの導入と更新の歴史を例に、キャップジェミニによるGOM変革支援の概要を紹介する。 

 シーラ氏は2008年からいすゞとのプロジェクトに参加し、現在はいすゞ向け支援の責任者(クライアントパートナー)を務めている。長年にわたっていすゞのメンバーと一緒に世界各国の拠点を巡り、GOM変革の実現に向けてSAP導入を展開してきた。 

 「現地の従業員がシステムを喜んで使ってくれることが重要です。海外進出で最初にすべきことは、進出先で働く人とのコミュニケーションです。私たちも現地のことを勉強して、同じものを食べて関係を深めます」 

 同じくいすゞのプロジェクトに2009年に合流した小幡氏も、シーラ氏と共に世界各地を飛び回り、GOMに基づく業務プロセスを展開してきた。 

 キャップジェミニがいすゞのSAPプロジェクトで開発したシステムの一つに、自動車の保守や点検、修理、交換などで利用するサービスパーツの管理システムがある。本社の業務プロセスをテンプレート化して世界各地の拠点に展開した。 

キャップジェミニのGOM構築アプローチ(出典:キャップジェミニの提供資料)

 「日本発のテンプレートを欧州、中近東とアジア、米国の順番で展開しました。現地の従業員に『付き合いのある地元の知り合いのシステム企業では駄目なのか』と言われたこともありました。しかし、GOM変革には全社共通の開発方針に基づく体制が必要だと、丁寧に説明して納得していただきました」(小幡氏) 

 コミュニケーションの重要性についてシーラ氏も続けた。 

 「十分なコミュニケーションが取れていれば、なぜ本社の方針が必要なのか、それが最終的にどんなメリットを生むのかが伝わります。このチェンジマネジメントがいすゞさまのGOM変革成功の大きな要因でした」 

 GOMは世界共通の業務プロセスを基本としているが、各国の法令対応のために異なるプロセスを組み入れる必要もある。 

 「インドでは、商品が国内の州をまたいだだけで消費税率が変わることがあります。特殊要件を地域ごとに加味しなければいけません」(小幡氏) 

 中近東のプロジェクトでは、シーラ氏のチームは倉庫管理のシステムを提供する現地企業にアプローチして、現地のベンダーとSAP ECCとの連携ソフトを共同開発することもあった。 

 「アジア初の導入拠点であったタイでは、作業着を着て、倉庫の在庫管理の仕方を教えていただきました。現地の言葉であるタイ語の1から100までの数え方も覚えてしまいました。基幹システムはオフィスで開発するというイメージがありますが、現場で汗をかいて作ることが大事です」(シーラ氏) 

 それぞれ地域、国のルールや法律に対応するには、スピードやコストの点でオフショア開発体制が不可欠だ。キャップジェミニは、いすゞの開発支援に当たって同社として初めてフィリピンにオフショア開発チームを編成し、15人が従事している。 

キャップジェミニのGOM構築アプローチ(出典:キャップジェミニの提供資料)

いすゞが世界各地でSAPのシステムを展開するに当たって、キャップジェミニは2007年の欧州部門を皮切りに次々と拠点のサポートを任されている。現在は日本本社を含む10拠点の開発、保守を支援している。 

 いすゞが利用しているのは、キャップジェミニのアプリケーション開発および運用保守サービス「ADMnext for SAP Solutions」(以下、ADMnext)(注)だ。システムの保守サービスだけでなく、以下のサービスも提供する。 

注:ADM = Application Development and Maintenance 

  • Adaptive ADM サービスによる全体業務の変革:システムの移行やマネージドサービスの導入、インテリジェントオートメーションを実現する 
  • Modernization サービスによるIT資産の可視化:ビジネスとITシステム全体にわたる製品のサービスモデルを推進し、クラウドとデータを活用したIT資産のモダナイゼーションを実現する 
  • Business Insightful サービスによる具体的な成果への先導:目的に応じたアプリケーションライフサイクルマネジメントを提案するBusiness Command Center with SAPを通じて、業界ベンチマークとなるSAPのベストプラクティスを提供する 
  • Emerging サービス&プロダクトによるイノベーション:「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)の導入や構築、運用を支援する。S/4HANAとその導入、運用支援サービスを合わせて提供する「RISE with SAP」と、インダストリー4.0を通じてSAP製品を活用した新しい製品とサービスおよび新しいビジネスモデルを創出する 

同社のサポートチームを統括するホセ氏は、「GOM変革は、システムの導入から運用までやり切ることが大切なので、途中で他社に移管するのではなく最後まで当社が伴走します。当社のサポートチームはプロジェクトの初期段階から運用時のケアを考慮して動き始め、お客さまの課題が解決するまで付き添います。その過程で得られたフィードバックが当社のナレッジになり、次の開発や運用に生かしています」と話す。エンドユーザー重視の姿勢でいすゞ社内の信用を勝ち取ってきたことが、サポート対象の拡大につながった。 

 いすゞは、全拠点で利用してきたSAP ECCをS/4HANAに移行している最中だ。既に12拠点のうち3拠点をS/4HANAに移行した。 

 キャップジェミニは、残りの拠点を支援する中で、変革のスピードアップと効率化を図るために、数拠点にまたがる4つのシステムを1つのインスタンスにまとめる提案をして検証している。 

 「当社はSAPソリューションの専属チームであるグローバルCoE(センターオブエクセレンス)を設置しています。当社のCoEは高い技術力を持つエキスパートを多数抱えており、お客さまに最新の技術を提供できます」(シーラ氏) 

 キャップジェミニのGOM自体が「グローバルワンキャップジェミニ」という、グローバル連携をベースとしたデリバリーモデルだということも大きな強みだと小幡氏は語る。同社はSAP上での開発、運用に関する豊富な知識と幅広いノウハウをグローバルで蓄積しており、各国のコンサルタントがそのノウハウを活用できる体制を構築している。 

 「私はここ数年米国で働いており、つい最近日本に帰任しました。日本に帰ってきた日から、米国と全く同じ要領でデリバリーに従事できています。当社のGOMが完全に機能していることを実感しました」 

 グローバル企業である同社のデリバリーモデルが、全世界で連携されたGOMを基に稼働していることで、顧客にサービスを紹介するときの説得力が増すという。 

 キャップジェミニのGOM構築支援は、構想や計画の策定だけでなく、実現のための業務プロセスやインフラの設計、システムの開発、保守、運用を含めた全行程をグローバルにサポートできる実行力の高さが特徴だ。製造業以外にも展開できる。 

 シーラ氏は、「海外展開はあらゆる業種の企業にとって大きなチャンスです。当社は多くの企業と一緒にグローバルビジネスを成功させてきました。その実績をさらに多くのお客さまと共有したいと思います」と語る。 

 海外進出に必要な「グローバルガバナンス構築」「現場力とカルチャーフィット」「システム開発力」の3要素を高いレベルで支援できるキャップジェミニは、日本企業にとって心強いパートナーだ。 

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キャップジェミニについて 

キャップジェミニは、お客さまのビジネストランスフォーメーションならびにテクノロジートランスフォーメーションのグローバルパートナーです。企業が“デジタル世界”と“持続可能な世界”への移行を加速できるようご支援し、組織と社会へのインパクトを目に見える形で生み出しています。当グループは、50か国以上、約34万人の使命感あふれる多様性に富んだチームメンバーから成る組織です。55年にわたり培ってきた豊富な実績を有し、幅広いビジネスニーズへの対応をテクノロジーの力で支援するパートナーとして、お客さまから厚いご信頼をいただいています。AI、クラウド、データ領域で市場をけん引する能力を発揮し、各業界への深い専門知識とパートナーエコシステムを組み合わせ、戦略・設計からエンジニアリングまでを網羅する強みを生かして、エンドツーエンドのサービスやソリューションをご提供しています。2023年のグループ売上高は225億ユーロです。 

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*『ガバナンスと効率化が海外展開成功の秘訣』は、2024年7月より「ITmedia」に掲載

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